それはもう、ものっすごい目だった。
体育のバレーで負傷退場(爪を切るのを忘れた矢先、アタックボールが指先メキャっと)して、高校に入って以来初めて、身体測定以外の用事で保健室に行った。そしたら、保健室の先生が「うわー、見してみ」なんて私の手をとったところで、視線を感じたのだ。
首を向けると、真っ白いベッドの上にお姉さんが座ってた。どう見ても高校生じゃないよね? でも、こんな先生うちのガッコにいたっけ? みたいな、お姉さん。長くて天使の輪っかが浮かんでる黒髪に、清楚な感じのカーディガンと膝下スカートがよく似合ってる、お姉さん。うっかり微笑んじゃったら、そこらへんの男の人はうっとり恋に落ちちゃうような、お姉さん。
だけどお姉さんは、そんな容貌をあっさり台無しにしちゃうような形相をしていた。そりゃあもう、眉間にはありありとシワをたぎらせ、瞳にはぎらぎらと殺意をみなぎらせ。保健室よりお化け屋敷がお似合い、と思いきや、あんまりにも迫力がありすぎて戦場に左遷されてしまうような、表情だった。
そんな彼女に圧倒されて、小さく「ひぁっ」なんて息を飲んでみたら、保健室の先生は「どした?」って、不思議そうに訊いてきた。「あ、あの人……」って、無事な方の手でベッドを指差すと、帰ってきたのは更なる疑問符。
「何も、ないぞ」
間抜けにぽっかり口開けて、私は彼女をまじと見た。
そしたら彼女は鬼のお面をとり払い、代わりに大きく目を見開いた。
「うそ」
そんな声が、小さく響いた。
それが、出会いだった。
ここまで聞いたら、「なーんだ、幽霊か」なんて、たいていの人は思っちゃうんだろう。
ところがどっこい、事態はもうちょいややこしい。
彼女には思い残すことがあるどころかまだ思い出作成真っ最中で、今まで一度も死んだことなんかない。姿が見えないだけで、確かに、この場所に生きてるんだ。
まぁ、平たく白状すると――彼女は透明人間? なのでした。
胸がぎゅんぎゅんして仕方なかった。
だって、久しぶりに見つけたんだ。
他の人には絶対見えない、私だけの不思議な友だち。
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