階段から突き落とされた。ほんの数段分だから重傷にはならないが、打ちどころが悪く手が腕が、膝小僧が鈍い感触にうめく。
「ごめんね? わざとじゃないの」
上から、女子たちが笑顔を降り注いでいる。
それに対して、両方の口の端を吊り上げ、思いきり笑ってみる。
「……なに? その顔」
「園江さん、態度悪くない? 親切にしたのにあんなこと書くしさあ」
「ねえ」
眉間にしわを寄せる中に、彼女もいた。
「ちょっとショックだったな。あれが園江さんの本音だったなんて」
素直に、子供のように怒ってみせる彼女たちは、じっとこちらを睨みつけていた。
そして放課後。数人に校舎の裏まで呼び出され、おとなしくついていく。彼女、彼らは、各々に、似たような笑顔を浮かべていた。
「ねえ園江さん、きっとどこかおかしいんだよね」
「これ食ったら治るんじゃねーの?」
男子の数人が、腕と肩をがっちりと押さえる。それから満面の笑みをたたえた女子が、ティッシュでくるんだ何かを、近づけてくる。
「ほら、口開けて?」
それは肌色の、うねうねとうごめく芋虫だった。
動きを封じる力が、より強くなる。一歩もみじろぎすることができない。女子が近づいてくる。視線。笑顔笑顔笑顔。
閉じようとする口に、太った芋虫が押し当てられた。
× × × ×
「どんな感触がした?」
「ぶにゃぶにゃしたのが歯に当たって、噛むと苦い液が舌を満たしました」
「そう」
× × × ×
Copyright(c) 2013 senri agawa all rights reserved.