幸せになれない星の住人 10−3

幸せになれない星の住人

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10−3


 夕方になっていよいよ、コンクールの結果発表が行われた。
 建物の大部屋で、高校ごとに固まって座る。どうでもよさそうにしている人、固唾をのんで見守っている人、色んな姿がそこにはあった。
 一番前で、司会者の人が入賞者の名を読み上げる。
 まずは佳作。一人、二人、三人、何人もの名が呼ばれ、その度にどこかしらの団体から歓声が上がる。うちの学校で呼ばれた人はいない。
 優秀賞。知らない名前が三人ほど。
 そして。
「優秀賞、最後の一人はS高の小林相子さんです」
 その瞬間、きゃあ、と間近で叫び声が上がった。
「先輩! すごい! やりましたね!」
「相子先輩、すごいですー!」
 相子はしばらくはなにも答えなかった。後輩に笑顔を向けることもない。ただ、しばらく目を見開き呆然とした後、急に理解したかのように、顔をくしゃくしゃにした。
「うそ……やったあ!」
 相子が破顔すると、後輩たち、いや、この一帯はさらに湧きたった。口々に「すごい」「やった」と、同じことを繰り返す。まるで、優秀賞の発表で全てがもう終わったかのような雰囲気。うちの学校の美術部にとっては、相子の名前が呼ばれた、それこそが完結の合図なのだろう。
 そうして――
「最優秀賞は、T高の」
 相子の周囲は聞きもしない中、知らない生徒の名前が呼ばれた。ここで、本当にコンクールは終わり。

「佳作くらいには入ると思ったんですけどね」
 帰りのバスから降りた時、相子を囲みはしゃぎまわる集団の後ろ、松本さんが私の耳元で囁いた。
「へえ、松本さん強気だったんだね」
「いえ、絵空先輩の絵が、です。さすがに初心者が入賞できるなんて夢見ませんよ」
 副賞のトロフィーを持つ相子の横顔が見える。幸せそうな、その笑顔。
「私は絵空先輩の絵の方が好きですよ」
 一応、なぐさめてくれているつもりなのか。
 松本さんは、淡々と言葉を投げかける。私はそれに、苦笑いを返した。


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