夜道を走った。住宅街を走りまわった。闇に染まるアスファルトは固くて、幾度も地を蹴った足がきしむ。それでも走った。あたりを見回しながら、走った。
だけど、見つからない。どれだけ走っても、見つからない。
黒いから。
闇にまぎれて見つからないだけだよね? きっと、どこかにちゃんといる。
街灯の下、塀の上、くまなく目を向ける。ひたすら探す――
「あっ」
その時、目の前の電柱の陰になにかが駆け込んだ。
私は全速力で、そこまで走る。なにかが動く。その姿が見える。
猫。
「あ」
電柱の陰に、黒い猫がいる。
黒い毛の――
「あ――」
それは。
夜にまぎれこんだせいで黒く見えただけの、灰色の猫だった。私を睨みつけて、にゃあと低い声で鳴く。
「――」
あの子が見つからない。
どこからも、きぅんきぅんという、か細い声が聞こえてこない。
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