いつかの2月14日/ほんものになる日

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 変な意味じゃなく、小さい子は可愛いと思うのだ。
「ねー、先生。今年、チョコ何個もらった?」
「いやあ。貰えるように見える?」
「ぜんっぜん! それで、その、いっこももらえないの、かわいそうだから――」
 大学時代に必死で教育実習をこなし、晴れて教員一年目。その終わり近くに、このイベントはあった。新米教師にいきなり任された小学五年生の一クラス、至らないことだらけだったが、それでもこうしてわざわざ来てくれる子がいたりするのは何とも面白いものだ。
「これ、あげる」
「え、貰っていいの?」
 女の子が変につんけんした態度なんか取ってみせるものだから、俺は笑いながらもわざとらしく訊いてみた。すると彼女は、ずいっと、可愛くラッピングされた小さな箱を眼前まで突きつけてくる。それを、今度は素直に受け取った。
「ありがとう」
「その。もらえなさそうな先生が、かわいそうだから!」
 それだけ叫んで、一目散に逃げていく彼女の背がひどく可愛らしい。職員室の他の教師も、微笑ましそうに眺めているようだった。
 あの子はクラス内でも、明るいが実は落ち着いた子で、どちらかというと皆のお祭り騒ぎを一歩下がって見守っている節があった。それでも、女の子達が「だれにチョコあげる?」ときゃいきゃい騒ぐ輪に参加しないのは寂しかったのか。ただ、皆と同じくクラスの誰かに、というのは恥ずかしいから、色々理由をつけて俺に、か?
 俺はもらったチョコを大事に鞄にしまう。と、マナーモードにした携帯が、緩やかに振動していた。プレゼントと入れ替わりにそちらを取り出す。確認してみると、一通の新着メールが届いていた。
『今日あいてますか……?』
 メッセージを目で確かめ、いったん携帯を閉じる。机の上を見る。今日の仕事は――まあいつもよりか早く終われそうか。
 ひとつ、息をつく。それから俺はまた携帯を開き、手早く返信を打つのだった。

「えー、教師なんてえ、すーぐ教え子に手え出すじゃないですかあ」
「まあ、毎日なんやかんや事件あるけどね」
「小学校の先生目指す奴なんてえ、ロリコンなんじゃないですかあ〜?」
 馴染みの居酒屋。そこで待ち合わせた大学の後輩は、ものの一時間で見事な絡み酒だった。酒に強い方でもないくせに、と諭すものの、やめようとはしない。困った話だがいつものことで、無理矢理にでも止めない俺にも問題はあるのだろうと自嘲する。
 現在大学三年生の彼女とは、同じサークルでよくつるんでいた。こうして俺が大学を卒業した後でも、たまに飲みに誘ってもらえるくらいには仲良しだ。特に、彼女がこうして失恋した後などは。
「いいですねえ〜! 先輩はあ、ちびっこからチョコ貰ってモテモテでえ」
「別に、モテモテでもなんでもないだろ。それに、若い先生に憧れーとか、小さい女の子はよくあるんでしょ?」
「応える気もないくせにチョコ受けとるんじゃねーっ! ……なにさあ、『気持ちは嬉しい。チョコありがとう。でも君の想いには応えられない』ってえ……!」
 彼女はグラスをあおって空にして、焼き鳥を強引にむさぼった。いい加減見ていられないので、俺は店員さんを呼び止めて「ウーロン茶ひとつ」と注文する。すると彼女は「まだ飲みたいぃ……」と呪詛のように呟きながらも、テーブルにつっぷした。
「……いつになったら、すきなひとにすきになってもらえるのかなあ……」
 そんな台詞が、隙間から漏れ出る。俺はそういう愚痴のひとつひとつを聞いて、何か言ったり何も言わなかったりするのだ。今回の場合は口を開かずにいた。
 一人でも、何でも相槌打って聞いてくれて、遠慮なくぶちまけるのを許してくれる相手がいることは幸福だ、自分は果報者だ、と彼女は笑った。大学時代からずっとそんな関係。彼女の笑顔を見ていたくて、俺はいつまでもその地位にいようと必死だった。
 それでも。彼女から漏れた言葉を、俺もまた常に心の中で溜め息とともに吐き出している。
 きっと彼女の恋が実れば不要となる、幸福なポジション。だってそうだろう。恋人さえいれば、そいつに何でも打ち明けるようになるのだろうし、第一他の男とそうそう会わなくなるに違いないのだ。
 ――自分が彼女の想い人となってしまえば、何の憂いもなくこの幸せな位置を去れるというのに。
 どれだけ一緒にいてもそうはならない。
 その場しのぎだとか代用品だとか、そういう存在から抜け出せる日はどうしたら来るのか。
「……先輩ぃ。また私が失恋してもお、こうやって慰めてくれますかあ……」
 彼女が顔をうっそりと上げ、俺に問う。その問いに少しだけ迷って、それでもわりとあっさりと、自分はうなずいてしまうのだった。
 明日もまた俺はちびっこ相手に授業。だからどんな想いを抱いてみせようと、ここでやけ酒なんてするわけにはいかない。あのチョコをくれた子、そうしてクラスの皆。愛すべき生徒の前でしっかりと職務を全うする。それが教師の責任ってやつだ。明日のために、今日の気持ちを脇にやる。
 たとえ彼女が明日にでも、大学でまた誰かに心惹かれていようとも。

A

 男運がないとかモテないとか、自分の不幸を表現する言葉にふさわしいのはどれか。探してみるがどれも違う気がしてしまう。
「この前観たドラマでね、主人公はもう最初っから男のこと好きだけど、男にはもう恋人がいて、でもその恋人が『あなたは主人公のことが好きなんだわ!』とか勝手に浮気疑って――とかいろいろあって、なんだかんだ、視聴者置き去りで男が主人公のこと好きになっちゃってたんですよ」
「ええと、何てドラマ?」
「さあ……とにかくですね、そのドラマで私が学んだことは、当人にその気がなくても周りが『あいつのこと好きだろう好きだろう』って騒いだらわりと恋に落ちたりしちゃうんだなーっていう」
「わかるようなわからないような……」
 先輩は軽くグラスに口をつけながら、苦笑している。明日もお仕事なのに悪いかな、と思いつつ付き合ってもらわずにはいられなかった。かくいう私も明日は就活だ。
 明日までには――この気持ちに、ひとまずの区切りをつけなければならない。
「サークルでね、『二人ってお似合いっぽいよね』ってね、皆に言われて……私、もともとその人のこと気になってたんですけどさらに気になって。その人も、それとなく皆に私とくっつけられて、わりかしまんざらでもないのかなーなんて思って。それで、ですよ」
 今日、もうテストも終わって大学に用もないだろうところを、わざわざ呼び出した。それでけっこう値のはるチョコなんか、渡してみたりしたのだ。
 見事にフラれた。「気持ちは嬉しいけど」なんて常套句であっさりと。
 飲まずにはいられなかった。一人じゃなく誰かと。それも、できれば話をよく聞いてくれる、ウマの合う人がよかった。先輩が来てくれて本当に助かった。
 私は安心してお酒を飲む。いつも行っている店だからカクテルなんかとっくに制覇して、どれが口に合うやつかは知りつくしていた。それでも、そんなのかまわずかたっぱしから頼む勢いだった。
 お酒を飲んで飲んで、みっともなく酔っぱらって、先輩に「もうやめた方がいい」なんて止められて――私って、なにをやってるんだろう。頭の中浮かんだ問いもまた、酔いに浮かされる気分と一緒にいつまでもふわふわと地に足がつかなかった。

 心配げな先輩と別れ、一人電車に乗る。酔いは醒めつつあった。平日の終電はそれなりに混んでいて、私は座れずドア近くにもたれる。窓の外は真っ暗で、ぽつぽつ灯る街の電灯ばかりが光ってどこか不気味だった。
 これで、何度目だろう。告白してフラれるのは。
 一緒にいるうち好きになっていた。それで、その人にも好きになってもらえるよう、もっと距離を縮めようとして、あんまりくっついたらウザがられるかなと時々離れたりして――いちおうそれなり、努力、したつもりなのだ。いつだって、誰に恋した時だって。
 だけどいつも上手くいかない。クラスの他の子が気になるから、実はもう付き合っている人がいたから――私が好みじゃないから。他に好きな人がいる、なんてそれらしい理由だけれど、そう、きっと根本的な問題はいつだって私だ。私の好きになる人は、私のことは好きじゃない。一緒にいるのが嫌じゃない、せいぜい行きつけるのはそこで、常にそこ止まり。他にいる好きな人に勝るほど好いてはもらえない。
 真っ暗闇に自分の顔がぼうっと浮かぶ。窓に映る女はとろんとした目に、しょぼくれた口元をたずさえていた。景気の悪い顔、と笑ってみたら、よけいにしみったれた表情になってしまう。
 ――私は、いつか誰かに、誰よりも好きになってもらえるのだろうか。
 そんな日は来るのだろうか。どうやったら? もっと綺麗になったら、もっと性格も可愛くして、それで、それで?
 電車が止まる。こちら側のドアが開く。人がたくさん降りていって、乗る人はなし。私は空いた車内に向けて、小さく吐息を放った。
 ひとまず明日は、就活頑張ろう。恋のことはしばらく忘れて頑張って――またいつか恋をしたら。
 その時も、こんな風になってしまうのかな。

B

 僻みでも何でもなく、自分は恋愛に無縁だと思っていた。誰かに嵌り込んだことはなかったし、そのことを悲しいと感じたこともない。自分は一生そうなのだと確信にも似た思いを抱いていたのだ。
「あのね、好きなのっ……これ、受けとって!」
 だから同じサークルの人にこうして贈り物をされたところで、心揺らぐことはなかった。僕は丁重に彼女の気持ちをお断りし、チョコレートを突っ返すのも酷だろうと品物だけは受け取っておいた。
 その奥で、別の想いが自らの内、目まぐるしく動いているのを意識する。
 ――きっと、この人のような、自分と似たような年回りの人間に恋情を抱くのが普通なのだ。同い年でなくとも、社会的に同じカテゴリ、大学生なら大学生同士。高校生相手ならぎりぎり大丈夫か。周りには騒がれそうなものだが。
 自分とそう歳が違わなければ、顔を合わせる時間もまた都合がつきやすい。歳が離れるというのはそういう点でも不便だ。効率が悪い。いや。しかしきっとそれは些細な問題だ。いちいち考えてみせるのは自分の都合、時間稼ぎにすぎない。
 そう、問題なのは――僕が自分には有り得ないと思っていた感情に支配される、そのきっかけを作った相手。
 今告白してきた女性は知る由もないだろう。僕の初めての恋愛らしき体験は、どうやら道ならぬものであったのだ。

 母と、その妹は非常に仲が良かった。それぞれが結婚しても相変わらずだ。だからしばしば、叔母は娘を伴ってこちらを訪れていた。その日もまたそういう機会だったのだ。
 叔母の娘――従妹は基本的に母親にべったりで、明るい性格ではあったが歳上の男である僕には気恥ずかしいものを感じているようだった。それで、あまり会話することもなく互いをやり過ごしていた。が、その日突然、自室に籠る僕の背後に気配を感じたのだ。
 小学生の従妹は振り返った僕にびくりと肩を震わせ、しかし、意を決したように一歩距離を詰めてくる。そうして、口を開いた。
「あの……おとなの、おとこのひとって、甘いものはきらいなんですかっ!」
 はあ? と僕が言ってしまったかはわからない。ただ、彼女が泣きそうな顔になったので、そういう態度をとってしまったのは確実だった。僕は多少慌てて彼女をなだめすかし、とりあえずベッドに座らせる。それから、事情を訊ねてみた。
 彼女はたどたどしく、しかしこちらがきちんと聞きとれる声音で説明してくれた。もうすぐバレンタインであること。どうしても渡したい相手がいること。しかし、その相手が自分と歳が違いすぎて、好みがわからないこと――本人に直接問うのは恥ずかしくてできないということ。
 正直なところ、自分がその時何を答えたか、一つとして記憶は定かでない。ただ、脳内にはその光景だけが焼きついていた。
 ベッドの上、控え目に置かれた両手。小さくまだ発展途上のその手は軽く握りこまれ、さらにちんまりとしていた。投げ出された、スカートから伸びる脚。この歳の子供の平均は知らないが、ダイエットでもしているのか、細くて触れれば壊れそうだ。そこそこ長い脚のような気もした。肌が白い。黒い髪の毛は艶があり、柔らかな質感が伝わってくる。ただ、そんな身体的特徴など、しっかりと覚えているものの瑣末に過ぎなくて――そう、表情だ。大事なものを人に打ち明ける、託す、その不安、緊張……覚悟。
 彼女は僕の目も見ずうつむき、しかしその瞳からは一つの想い、全身を突き動かす、紛れもない意志が感じ取れた。熱を帯び潤んでいて、ただ決してそこから雫を垂らす真似はしない、そんな情念の籠った目。
「あの?」
 ――我に返る。彼女の問いにどうにか答える。
 彼女に見惚れていた自らに気づく。
 そうして。彼女が去ってからもずっとその姿が頭から離れず、そのことに気づいた瞬間、自分がいかに愚かしい想いにとらわれたか頭を抱えることになった。
 従妹。法的には許される。しかしそれ以上の年齢差。相手は小学生。
 小学生。生まれてこのかたまともな恋愛をしたことがなかったのに、初めての相手が幼い少女? 笑わせるな。もしや、自分はそういう性的嗜好で、だからこそ今まで人を好きになったことがなかったのか? それこそふざけるな、だ。
 それからバレンタイン当日を迎え、同じ年頃の女性に告白などされ、自らの間違いはより濃く突きつけられることとなる。
 女性は、僕に想いを伝えることができる。しかし僕にはそんなことは許されないのだ。
 歳の差など関係ない、そう言って開き直れる恋愛などそうそうあるものではない。僕のこの恋は、倫理的に許されない。ロリコン。社会的にはそう判断される。それは不名誉で、汚らわしい、異端の称号。
 想いを伝えられる相手もまた、困惑する。素直に受け取れない。怯える。怖い思いをさせてしまう。彼女が身を震わせる。彼女が泣く。
 芽生えたばかりの感情は、早速封印せねばならなかった。この想いは間違い。きっぱり忘れよう。そうだ、これを機に道ならぬものではない、普通の恋愛でもしてみるべきではないか。それがきっと正しいのだ。そうすればきっと誰も傷つかない。自分もまた頭を悩ますこともない。
 ――ただ。一抹の、やけに涼しい風が心を吹く。
 この、高鳴る鼓動は間違いか。焼きついた彼女の姿は、消さねばならないか。僕の中、確かに芽吹いた胸焦がす想いは、否定してなかったことにしなければならないのか。
 いつか僕は、全部まるごと肯定できる、そういう、本物の恋をするのか。できるのか。
 彼女の幼く、強い目が、僕を見つめているような気がした。

C

 きっと本気だとは思ってもらえないだろうね、と言われた。
「先生に対する憧れとか、君の年頃だとよくあるものなんだろう?」
「そんなこと、ないっ! ……です」
「きっと君みたいに先生にチョコをあげる女子は、たくさんいるんだろうね」
 そうして、そのだれもが本気ではないんだろうね。そうやってイトコのお兄さんは笑った。わたしがしょげるのを見ると、すこしだけ悲しそうにしてみせた。
 その日きいたことをまとめると、おとこのひとも、甘いものはけっこうすき。きっと、笑ってうけとってくれる。でも、笑ってくれるだけ。
 わたしの想いは、にせものだって言われる。
「大きくなってから、ちゃんと人を好きになる、その練習。教師なら、きっとそういう風に思うんだろうね」
「でも、先生は」
「先生なんて、皆同じだと思うよ」
 でもちがうもん! 頬をふくらませるけれど、なんだか、お兄さんの顔を見ているとムダみたいだった。胸のあたりがムカムカするくせ、変にスカスカして気持ち悪い。
 それから。
 お兄さんにお礼を言って、お母さんからおこづかいをもらい、できるだけ大人っぽく見えるチョコを買った。包装紙も買って、自分でラッピングしてみる。何度も紙をぐしゃぐしゃにして、ようやくキレイにできた。わたしって、けっこうやるじゃん! そんな風にいい気分になった。
 けれど。
 それで、勇気を出して先生にチョコをあげたら、お兄さんの言ったとおりになっちゃったんだ。

 ちゃんと「すき」って、言いたかった。
 お兄さんがあんなこと言うからだ、と思うけど、そんなのやつあたりだってじゅうぶん知ってる。職員室には他にも先生がいた。それではずかしくって、先生もこっちを笑って見てて、それでそれで……
「ね、ちゃんと渡せた?」
「あ、うん……」
「どうだった?」
「喜んでくれた、かな……」
 玄関で待ってくれていた友だちが、わたしのところによってきて結果をきいてきた。わたしは笑う。その笑い方はきっと、先生とは似ても似つかない。
 なんであんな言い方しちゃったんだろう。
 あんな言い方しなかったら……先生は、もっとちがう風にうけとってくれた? わたしの想いは、通じたのかな。
 一瞬、考える。だけれど、友だちと帰り道を歩いているうち、なんだか、そうはならないってすぐにわかってしまった。
 先生はおとな。いつもニコニコしてて、下手だけどがんばって教えようとしてて、クラスのだれにでも優しかった。だれにでも。だからたぶん、わたしじゃないだれかがチョコを渡しても、同じように笑うんだろう。
 認めたくない。でも、きっと、お兄さんの言ったことは全部アタリなんだ。
 わたしの恋は、本気だと思われない。
「わたしも、あいつに渡せばよかったかなー」
「……今から行ってみる?」
「えー?」
 となりの友だちは、今日チョコをすきなひとに渡さなかったことを後悔している。わたしがちょっと背中をおすと、とまどいながら、「どうしようどうしよう」って、こまって笑う。昨日、先生に渡すかさんざんまよったわたしと、きっと同じなんだ。
 ――先生相手じゃなくても、わたしの想いはにせものだって思われる。わたしじゃなくて、クラスのだれも、みんな、こどもはそうなんだって。おとなにはきっと思われてる。
 クラスで仲のいい男子に告白するあの子の恋も、下級生に想いを伝えたあの子の恋も、背伸びして中学生の知り合いにチョコをあげた子たちの恋も、わたしといっしょ。
 小学生だから、本気じゃなくって。
 もっとおとなになったら、ほんものの恋をするって思われてる。そうやって、笑いながら見られてる。
『大きくなって、ちゃんと人を好きになる、その練習』
 ――だけどそれは、ほんとうなのかな。
 友だちはまよってから、「今からあいつの家に行ってくる!」って、わたしと別れた。あの子はいつも、すきなひとのことばっかり話した。
 わたしだって。毎日、先生のことばっかり見てる。頭の中が先生のことでいっぱいになっちゃって、ときどき友だちに「どうしたの?」ってきかれる。あわてて隠す。でも、先生を見ちゃう。
 そんなわたしの日々が、にせものになる日が来ちゃうのかな。
 この想いがほんものじゃないって、わかる日が来るの?
 いつかおとなになって、先生のことも忘れて、ほんものの恋とかいうのをするの?
 わからない。
 ――ただ。
 今は、にせものでもなんでも、先生に「すき」って伝えられなかったことが、くやしいです。
 わたしにほんものの恋を教えてくれるのが、先生じゃない、そう思うと、とても、さびしいです。


-END-


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